自分で自分を見れば、これはいかなこと! 昨日《きのう》登山第一の元気はどこへやら、焼酎《しょうちゅう》は頭へ上《のぼ》って、胸の悪《あし》き事|甚《はなはだ》しく、十二、三町走るか走らぬに、迚《とて》も堪《たま》らず、煙草《たばこ》畑の中へ首を突込んで嘔吐《へど》を吐《つ》く。焼酎と胡瓜《きゅうり》は尽《ことごと》く吐《は》き出したが、同時に食った牛肉は不思議にも出て参らず、胃の腑《ふ》もなかなか都合好く出来たものかな。
そこに背後《うしろ》に人の足音が聴こえたので、南無三宝! 見付けられたかと、大急ぎで煙草畑から首を突出してみると、幸いに嘔吐《へど》はくところは見付けられず、そこには六十ばかりの梅干|婆《ばあ》さん眼玉を円《まる》くして、あっちに駆け行く一行を眺めつつ、
「何事が起っただね」と、さも驚いた顔。
吾輩は空惚《そらとぼ》けて、
「泥棒を追掛けているのだ」というと、婆さんなるほどといわぬばかり、
「あの髯生えた黒い洋服《ふく》、泥棒だんべい。お前様方刑事かね」と、ここから真先《まっさき》に逃げているように見える髯将軍は泥棒と間違えられ、吾輩等は刑事と相成った次第。
「そ
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