と腰を下し、何か食う物は無いかと聴くと、何も食う物は無いが、焼酎に漬物位なら有るという。
「焼酎でも結構結構」と、焼酎五、六合に胡瓜《きゅうり》の漬物を出して貰い、まだ一缶残っておった牛肉の缶詰を切って、上戸《じょうご》は焼酎をグビリグビリ、下戸《げこ》は仕方がないので、牛肉ムシャムシャ、胡瓜パクパク。漬物は五、六杯お代りをすれば、もう一家中にあるだけ尽《ことごと》く平《たいら》げてしまったので、今度は生の胡瓜に塩をつけて丸噛《まるかじ》り。減腹《すきはら》に焼酎を呷《あお》った連中はフラフラして来る。吾輩も白状すれば大いに参った。
何しろ重い荷物を引担いで山道は迷う、炎天には照りつけられる、その上|昨夜《ゆうべ》の睡眠不足も手伝って、一行の足の重きこと夥《おびただ》しく、些《いささ》か意気消沈の気味にも見えるので、こんな事ではいかん、反対療法に如《し》くは無しと、その実吾輩も大いに凹垂《へこた》れているくせに、
「ここから雲巌寺まで約一里、クロスカンツリーレースを行《や》ろうではないか」と威張り出せば、誰も凹垂れたと見られるのは厭なものと見え、
「賛成賛成」と孰《いずれ》も疲れ切っ
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