は歩いているのだか、ツクネンと立っているのだかさっぱり分からぬ。
「いくら歩いたって駄目だ。まだ二里半あるなどと、そんな馬鹿な事があるものか。道を近くいう奴は可愛らしいが、遠くいう奴は憎らしい。あの老爺《おやじ》の面《つら》も癪《しゃく》に触るではないか」と、老爺どのとんだお憎《にくし》みを受けたものだ。蓋《けだ》し足の重くなった旅行家の真情を暴露したものだ。
(一八)焼酎《しょうちゅう》の御馳走
一行は多少ヤケ気味に、それよりはブラリブラリと牛の歩み宜《よろ》しく、またもや一里あまり進んで、南方《みなみかた》村という寒村に来掛かれば、路傍《みちばた》の開放《あけはな》されたる一軒家では、褌《ふんどし》一本の村の爺《じい》さん達四、五人|集《あつま》って、頻《しき》りに白馬《どぶろく》か何か飲んでいる。ここでもまたまた雲巌寺へ何里あると問えば、
「そうさね、一里には近かろう」との答えだ。
「善哉《ぜんざい》! 善哉! この爺さん達はエライよ」と、一同はホッと一息。時刻は正午《ひる》間近なので、朝飯の不足に腹が減って堪らず、ここは掛茶家ではないが、一同は御免|候《そうら》え
前へ
次へ
全57ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング