ガッカリやら。一同はその教えられた通りにまたもや一里半ほど進むと、今度は頬被《ほおかむ》りの馬士《まご》がドウドウと馬を曳《ひ》いてやって来たので、もう雲巌寺も間近だろうと胸算用をしながら、
「お寺へは何里だね」と軽く訊《たず》ねると、
「そうさね、二里半もあろうか」といい捨てて行き過ぎる。
「ハテナ、来れば来るほど道が遠くなるとはこれ如何《いか》に」禅宗の問答ではないが分からぬ事限りなし。初め雲巌寺まで二里と聴いた水車小屋からは、二里は愚《おろ》か無駄足をして既に四、五里は来たのに、この先まだ二里半あるとはガッカリガッカリ。孔明《こうめい》の縮地の法という事は聞いているが、この辺《へん》に伸地の魔法でも使う坊主でもいるのではあるまいかと、一同は俄《にわ》かに疲労《つかれ》を感じてきた足を引摺《ひきず》り[#「引摺《ひきず》り」は底本では「引摺《ひきずり》り」]引摺り、更に半里ほど歩んで、路傍《みちばた》の農家にチョン髷《まげ》の猿のような顔をした老爺《おやじ》が立っていたので、またしても懲《こ》り性《しょう》なく、
「雲巌寺まで何里だ」と問うと、
「二里半だ」と相変らずである。これで
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