る事|甚《はなはだ》しく、手や首筋を刺されて閉口閉口。
絶頂から一里ほど降《おり》ると、果《はた》して急流矢のごとくに走っている。急流の岸には一軒の水車小屋も淋《さび》し気に立っている。一行は今夜、那須野《なすの》ヶ|原《はら》の黒羽《くろばね》町に一泊の予定で、その途中、有名な雲巌寺《うんがんじ》へ回ってみる積りなので、急流の岸の水車小屋に足を運び、
「ここから雲巌寺まで何里ある」と訊《き》けば、
「二里位だ」と答える。有難《ありがた》し有難し、二里位なら一足飛びだと、くわしく道を聴き、急流に沿うて、或《あるい》は水を渉《わた》り、或《あるい》は岩角を踰《こ》え、漸《ようや》く道らしい道に出たので、一行は勇気数倍し、髯将軍|真先《まっさき》に軍歌などを唱《うた》い出し、得意になってだんだん山を降《くだ》ること一里半ばかり、むこうから樵夫《きこり》らしき男が来たので、
「雲巌寺へはこの道を行けばいいのか」と訊《き》けば、
「滅相もない。この道を行けば棚倉《たなぐら》へ出てしまう。雲巌寺へはズット後戻りして、細い道を右へ曲がって行かねば駄目だ」と、悉《くわ》しく道を教えられて有難いやら
前へ
次へ
全57ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング