話もないが、今日の行程は七里以上、なにも食わずでは堪らぬと、昨夜《ゆうべ》咽《のど》を渇かしたにも懲りず、またしても塩からいコーンビーフに些《いささ》か腹を作り、氷砂糖などをしゃぶりつつ、出発の用意全く出来上ったが、ここに困った事には、例の剛力先生、今日のお伴は真平《まっぴら》だといい出した一件で、
「こんな苦しいお伴をした事は生れて初めてだ。荷物の重いばかりでなく、箆棒《べらぼう》に前途《さき》ばかり急いで、途中ろくろく休む事も出来ねえ。どこまでも付従《くっつ》いて行ったら生命《いのち》を取られるかも知れねえだ。俺達はここから帰る帰る」
とダダを捏《こ》ねている。
「そんな事をいっては困る。この深山で置いてきぼりを食っては、麓へ降りる道も分からぬではないか。今日は荷物もウント軽くしてやる。ゆっくり休ませてもやるから、ぜひ行ってくれ」と頼んでも、
「厭《いや》だ厭《いや》だ、ここで御免|蒙《こうむ》るだ」と、いつまでもグズグズいっているので、吾輩大いに腹を立て、
「勝手にしろ。山を降りれば何かあるに相違ない。何かに付いて降《おり》れば、どこかの村に着《つく》に極《きま》っている。汝等《
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