》と虫類のウジウジ押し寄せるので、吾輩はいかに日中の疲労《つかれ》があっても容易に眠る事は出来ず、早く夜が明けてくれればいいがと待つばかり。その内に一時間位はウットリしたのであろう。なんだか悪魔に腰骨でも蹴られたような夢を見てハット驚き目を開《あ》くと、眼前には真赤《まっか》な恐ろしい天狗の面。将《まさ》に消えなんとする蝋燭《ろうそく》の光は朦朧《もうろう》とそれを照《てら》している。時計を出して見ると午前三時。まだ夜の明けるには間《ま》があるが、いつまでもこんな所に寝ていられるものかと、吾輩は突如《いきなり》跳ね起き、拳《こぶし》を固めて傍《そば》の巨《おお》太鼓を、ドドンコ、ドンドン、ドドンコ、ドンドンと無暗《むやみ》に打叩けば、何人《なんびと》も満足に睡《ねむ》っていた者はなかったものと見え、孰《いずれ》もムクムクと頭を擡《もた》げて、
「何時だ何時だ」
「まだ三時だが、もうそろそろ出立と致そう」
「よかろうよかろう」と、一同も起上《おきあが》り、着のみ着のままで寝たので身仕度の手間は入らず、顔を洗おうにも水はない。また握飯《にぎりめし》はオジャンとなったので朝食《あさめし》の世
前へ 次へ
全57ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング