か、アーメンはよくよく嫌いと見えたり。

    (一六)拝殿の[#「拝殿の」はママ]一夜

 サア天狗様へ御|挨拶《あいさつ》も済んだというので、一同は奥殿の片隅を拝借し、多くはビショビショに濡れたまま、雑嚢《ざつのう》や新しい草鞋《わらじ》を枕に横《よこた》わったが、なかなか以て眠られる次第ではない。下は毛布《けっと》一枚敷かぬ堅い床板なので、腰骨や肩先が痛くなる。深夜の寒気《さむけ》にブルブル震えて来る。その上得体も知れぬ虫がウジウジ出て来て、誰かの顔へは四寸程の蚰蜒《げじげじ》が這《は》い上《あが》ったというので大騒ぎ。あっちでもブウブウ、こっちでもブウブウ、その内にゴーゴーと遠雷のような音響《ひびき》、山岳鳴動してかなり大きな地震があった。
「ソラ、天狗様の御立腹だ」と、一同は眼玉を円《まる》くする。ヌット雲表《うんぴょう》に突立《つった》つ高山の頂辺《てっぺん》の地震、左程の振動でもないが、余り好《い》い気持のものでもない。しかしこんな高山絶頂の野営中に地震に出逢うとは、一生に再び有る事やら無い事やら、これも後日一つ話《ばなし》の記念となるであろう。
 とにかく寒気《さむさ
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