た。
「万歳万歳」の声は四方に起り、一同は蟻《あり》の甘味《あまき》に付くように水汲み隊の周囲《まわり》に集り、咽《のど》を鳴らして水筒の口から水を呷《あお》る。その旨《うま》い事! 甘露ともなんとも譬《たと》えようがない。
 スルト今まで居眠りをしていた剛力先生、二人共ノソノソやって来て、吾輩等の背後《うしろ》から猿臂《えんび》を伸ばして水筒を掴《つか》もうとする。
「コラッ、貴様ッ、ろくろく働きもせぬくせに、生血《いきち》のような水を唯《ただ》飲みしようとは、怪《け》しからん奴だ」と呶鳴《どな》り付けたが、考えてみればあれも人の子、咽の渇くのは同じだろうと惻隠《そくいん》の心も起り、
「皆飲むなよ」と、長い竹筒の水を渡してやれば、先生竹筒に口を当てるが早いか、逆様《さかさま》にして皆ゴボゴボと飲んでしまった。イヤ腹の中へ飲んだのならまだいいが、奴《やっこ》さん一口でも多く飲んでやろうと周章《あわ》てたため、水汲み隊が汗水流して汲んで来た大事な水をば、大半ゴボゴボと溢《こぼ》して地面に飲ませてしまったのだ。よくよく癪《しゃく》に触る奴等であるわい。

    (一五)巨大な天狗面


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