上、留守師団は水汲み隊の帰ってくるまでの間に、天幕《てんと》を張り、寝る用意を総《すべ》て整えておく事とし、未醒《みせい》子、杉田子、髯将軍の三人は、身を殺して仁を為すといわぬばかりに、甲斐甲斐《かいがい》しく身支度を整え、水筒はただの三個の他《ほか》はないので、こればかりの水では足らぬと、廃殿の中を捜し回り、古びた花立のような長い竹筒を見付け出したので、それ等をぶら下げ、懐中電灯に暗い険しい胸突き八丁の道を照らしつつ、雨を冒して金性水の方《かた》へと降りていった。
 跡に残った吾輩等は、焚火に燃ゆる枯枝を松明《たいまつ》と振り照らし、とある大木の下の草の上に天幕《てんと》を張り出したが、松明は雨で消える、鉄釘は草の中へ落ちて見えなくなる、その困却は一通りでなかったが、彼《か》の殿様然たる剛力どのには、水を汲みに行こうとはいわねば、天幕を張る手伝いをするでもなく、ただ焚火に噛《かじ》り着いてはや居眠りを始めてござる。
 三、四十分も掛かって漸《ようや》く天幕《てんと》を張り終り、筵《むしろ》を敷いてそこへ覚束《おぼつか》なくも焚火を始めた頃、水汲み隊は息を切らしヘトヘトになって帰ってき
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