なるが、風下にいる連中は渦巻く煙に咽《むせ》び返って眼玉を真赤《まっか》にし、クンクン狸のように鼻ばかり鳴らしている。
 とかくする内に、一同は咽《のど》が乾いて堪らなくなって来た。それもその筈だ。汗水たらして激しく山登りをして来た上に、握飯には有付けず、塩からい冷肉を無闇《むやみ》にパク付いたので、迚《とて》も堪《たま》ったものではない。
「ああ咽が渇く、咽が渇く」との嘆声八方より起る。なるほど八人口々に唸るのだから、これこそ本当の八方じゃ。
 なんでもこの山巓《さんてん》を少し降《くだ》った叢《くさむら》の中には、どこかに岩間から湧き出《いづ》る清泉《せいせん》があるとは、日中|麓《ふもと》の村で耳にしたので、
「オイ、その清泉《いずみ》の所在《ありか》を知らぬか」と剛力に聴いてみたが、
「一向知らねえだ」と澄ました顔をしている。後《あと》から考えてみると、数回この山に登った奴が全然知らぬ道理はない、きっとこの雨の中を汲みに遣られては堪らぬと、自分等も咽の渇くのを我慢して、焚火に噛《かじ》り着いていたいため、知らぬ顔の半兵衛を極《き》め込んでいたものと見える。
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