構であったが、この寒さでは閉口閉口。ブルブル震えながら山頂に立って、
「オーイ、剛力ィ――。オーイ、剛力ィ――」と叫んで見たが、応《こた》うるものは木精《こだま》ばかり、馬糞《うまくそ》剛力どこをマゴ付いている事やら。
その内に再び雨さえ降って来たので、コリャ堪らぬ堪らぬと、杉田子はお年寄り役だけに、若手の面々を指揮して枯木枯枝を集めさせ、廃殿の横手に穴のような処を見付け出し、頻《しき》りに焚火《たきび》をしようと焦ってござるが、風が吹く、雨が降る、その上燃料が湿っているので火はなかなか付かぬ。エイ生意気な雨だと怒って見ても、雨は相手にならず。
漸《ようや》く火の盛んに燃え付いた頃、剛力先生もまた漸く上《あが》って来たので、まず早速着服に及ぶ。何はともあれ腹が減って堪らぬから、一同は焚火を囲んで夕食に取掛かったが、これはしたり! 一行二日分の握飯は風呂敷に包んで若い方の剛力が背負《しょ》って来たのだが、この男元来の無精者、雨が降っても蔽《おお》いもしなかったものと見え、グチャグチャに崩れた上に、雨に濡れてベトベトになっている。
「こんな物食えるものか」と、怒っても、他《た》に食う物
前へ
次へ
全57ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング