はくもうすい》の清泉が湧き、五つの瀑布《たき》と八つの丘嶽《おか》とまた八つの渓谷《たに》とがあって、孰《いず》れも奇観だ。ことにこの山中に生ずるサヤハタという木は、水中に在ってもよく燃えるので、その皮を炬火《たいまつ》として大雨中《だいうちゅう》でも振回して歩く事が出来るそうだ。先刻《さっき》通ったあの金性水の所には、昔時《むかし》四斗|樽《だる》程の大蛇が棲《す》んでおって、麓の村へ出てはしばしば人畜を害したので、須藤権守《すどうごんのかみ》という豪傑が退治したという口碑が伝わっている。現に今でもこの山中にはなかなか毒蛇が沢山いるという事だ、御用心御用心」と、首を縮めて腰の辺《あたり》を撫でている。
(一二)汗臭い握飯《にぎりめし》
その話は面白いが、しかし吾輩は山登りの汗が引込むに随《したが》い、だんだんと寒くなって仕方がなくなった。それもその筈《はず》である。吾輩は帽子もズボンもズブ濡れで、腰から上は丸裸、山頂の雲霧を交えた冷風がヒューヒュー吹き付けるのだから堪ったものではない。シャツや上衣《うわぎ》は今朝剛力の担ぐ荷物の中へ巻入れてしまったので、暑い道中は誠に結
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