う。
「こんな奴はズット先へ遣っておいた方がよかろう」というので、二、三里先へ行って待っていろと命令して先発させ、一行は或《あるい》は山水の奇勝を写真に撮り、或いはゆるゆる写生などをし、もう牛《ぎゅう》的剛力も余程遠くへ行っているだろうと思い、急足《きゅうあし》に半里《はんみち》ばかりも進んでみると、剛力先生泰然自若と茶屋に腰打ち掛け、贅沢にも半腐りの玉ラムネなんか飲んでござる。癪《しゃく》に触って堪らぬ。ホイホイ背後《うしろ》から追い追い立て、約二里ばかり進めば、八溝川の上流、過般の出水の為に橋が落ちている。橋が無ければ徒歩じゃ徒歩じゃと、一同ジャブジャブ水を漕いで渡るに、深さは腰にも及ばぬ程であるが、水流は石をも転《まろ》ばす勢《いきおい》なので、下手をすれば足|掬《すく》われて転びそうになる。ドッコイ、ドッコイ、ドッコイショと、爺《じい》様のような懸声《かけごえ》をしながら漸《ようや》く河を渡り、やがて町付《まちつき》という寒村に来掛かれば、もう時刻は正午に近い。
「アア腹が減った。腹が減った」という声が頻《しき》りに起る。この昼飯《ひるめし》分は剛力に担がせて来たのだが、この前
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