盛んな盆踊りを見付けたので、今度は巡査と間違えられる気遣いもなく、髯将軍は盆踊りの親方らしき若者と交渉の上、首尾よく珍妙な踊りを二、三枚撮影したが、夜中《やちゅう》の事とて不意に閃電《せんでん》のごとくマグネシヤを爆発させて撮影するので、その音に驚き、キャッと叫ぶ女もあれば、閃光に眼《まなこ》を射られて暫時《しばし》は四方真暗、眼玉を白黒にしてブツブツいっている男のあるなど滑稽滑稽。

    (九)弱い剛力《ごうりき》

 翌日午前六時|大子《だいご》駅出発。これから八里の山道を登って、今夜は海抜三千三百三十三尺、八溝山《やみぞさん》の絶頂に露営する積りである。そこで剛力を二人雇い、写真器械だの、天幕《てんと》だの二日分の糧食だけを背負わせたところ、重い重いと頗《すこぶ》る不平顔。
「ナァニ、こんな物が重いものか」と、追い立てるようにして出発したが、その遅いこと牛の歩行《あゆみ》も宜《よろ》しくである。仕方がないから一同その荷物の幾分を分担したが、それでもなかなか速くは歩かぬ。ことに若い方の剛力は懦弱極まる奴で、歩きながら無精な事ばかりいっている。剛力でない、弱力と呼んだ方が適当だろ
前へ 次へ
全57ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング