ら黄色い紙に何か細々と記した物が出て来た。
 博士は急ぎ拾い上げ、鼻眼鏡を取り出して鼻にかけ、眉の間に皺を寄せながら熱心に読み始めた。なにしろ鉛筆の走り書きで、文字も今は朦朧となっているが、読む事数行にして、博士はにわかに愕然たる様子で、
「ホー、怪異《ミラクルス》! 怪異《ミラクルス》! 怪異《ミラクルス》!」と、あたかも一大秘密でも見出せしごとく、すぐさまその黄色い紙を衣袋《かくし》に押し込み、物をも云わず、岬の上の別荘めざして駆け出した。
 二人の娘は呆気にとられ、
「阿父様《おとうさま》、なんですなんです」と、その跡を追いかけたが、博士は振り向きもせず、別荘の自分の書室に飛び込むやいなや、扉に鍵をピンとおろし、件《くだん》の不思議なる書面を卓上に押しひろげ、いよいよ深く眉の間に皺を寄せて、ふたたび熱心に読み始めた。
 二人の娘は室の外まで押し寄せきたり、鍵のおろされたる扉をコトコトと叩いて、
「阿父様《おとうさま》、何か珍しい事なら聴かせて頂戴《ちょうだい》な、あら鍵なんかおろしてひどいこと――」と呟けど、博士は知らぬ顔、「お前達の聴いても役に立たぬ事だよ」と、一声云ったばかり
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