る、拾ったのは何んだ」と呼んだ者がある、振り向いて見ると父のモンテス博士で、ニコニコしながら進みよる。二人とも嬉しそうに、左右からその首に縋《す》がりつき、
「阿父《おとう》様、この瓶、みょうな瓶なんですよ、ちょうど生きているように、幾度投げてもコロコロと――」
「ホー、海員の飲むビールの空瓶だな」と、博士は妹娘の手からその瓶を取って眺めたが、
「これは奇妙だ、この瓶の口栓《キルク》はすでに腐っておる、そのうえ瓶の外に生《む》している海苔《こけ》は、決してこの近海に生ずる物ではない、南洋の海苔《こけ》だ、南洋の海苔《こけ》だ、このような海苔《こけ》の生じているので見ても、この瓶のよほど古い物である事が分る、思うに難破船の甲板からでも投げたものだろう」と、さすがはポルトガル第一の科学者と云わるるほどあって、その着眼がなかなか鋭敏だ。博士は斯《か》く云いつつ、瓶を差し上げて太陽の光線《ひかり》に透かしてみたが、
「オオ、あるある果してみょうな物があるある」と叫んで、好奇心は満面にあふれ、口栓《キルク》を抜くのももどかしと、かたわらの巖石《いわ》をめがけて投げつけると、瓶は微塵に砕け、なかか
前へ 次へ
全36ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング