、百人の勇士と百人の美人と、その当時にあらゆる珍宝貨財とを乗せて本国を発せしが、南太平洋に乗りいりし後まったく行方不明となり、いまなお一大疑問を世界に遺《のこ》せりと云うが、今日余がここに見るこの巨船は、その瑠璃岸国の巨船にはあらざるか、余は数千年以前の巨船がいかなる理由によりて、いまなお現存せるやをしらずといえども、ここに現存せる事だけは事実なり、これには科学上の不可思議なる理由あらん。もしこれが果して瑠璃岸国の巨船なりとせば――嗚呼余は学者にあらざる事を憾《うら》む――この船の発見がいかに古代の文明を今日の世界に紹介し、いかに多くの利益を現世紀以後の学者社会に貢献するかを――されどかかる事は云うだけ無益なり、余は今にもこの世を去るべき身なり、いかにしてもふたたび人間社会に帰るあたわざる身なり、余の乗り来りし帆船《ほまえせん》の燃ゆる火焔の消ゆるとともに、余はこの地球の果においてただちに凍死《こごえし》なん、いな瑠璃岸国の国王並びに勇士美人のごとく、一種異様なるミイラとなって空《むな》しく残らん、今や余の魂は飛び腸《はらわた》は断たんとす、せめてはこの奇怪事を人間世界に知らしめんとて
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