昇しつつあったが、次第にその速力を早めて来た、秋山男爵は東の方へ、雲井文彦は西の方へと針路を取って進んで行く。
刻一刻地上の者は次第に小くなって遂には、一番高い山の頂さえ見えなくなって終った後は、四面ただ漠々として、いずれを見てもただ雲ばかり、両方の飛行船すら如何なる距離を以て進んでいるやら、形も姿も見えない。
ただ雲の間を潜って、舳《へさき》に据えた羅針盤を頼りに、どこをそれという的《あて》もなく昇って行くのである。
月界の到着
雲井文彦の飛行船は、地球を出発してからもう一週間になる。しかしまだ月らしい影も見えない。毎日毎日見る物は相も変らず、真白な雲ばかり、従者の東助はそろそろ心配し始めて、
「若旦那様、今日でもう一週間になりますがまだ何も見えませんのは、もしや方角でも取り違えたのじゃありありましねえか。」
「そんな事はあるまい。確かにこの方角に向って行きさえすれば決して間違うはずはない。」
「それにしても秋山様はどうなさりましただか是非この勝負には若旦那様をお勝たせ申しましねえでは、私の気が済みましねえ。それに第一あの秋山様は世間の噂では、随分|性質《たち》の悪
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