聞くや否や、文彦に縋り付いて、
「若旦那様※[#感嘆符三つ、48−上−7] 残念でござります。」
「どうした。叔父さんはどうした。」
東助は欷《しゃく》り上げて、
「私がお預かりしていながら、何とも申訳はありませぬが、貴方様のお出発《た》ちなされた後、大旦那様の御介抱を致しておりますると、二日目の晩になって、入口の方で何やら足音が致しまするで、必然《てっきり》貴方様が御帰りなされた事と存じまして、早速御迎に出ますると、貴方様ではのうて、」
「えッ?」
「あの面憎い秋山男爵。」
「何? 秋山男爵?」
「はい。下僕《しもべ》と二人で這入って参ります。」
「うう。それからどうした。」
「ここだここだといいながら、闇《くらがり》で見えなかったのか、私の方にも目もくれず、二人でずんずん奥へ行きますからどうするかと、私も後から蹤いて参りますると、大旦那様のお姿を見るが早いか、『やや篠山博士ですか、秋山が月子さんの御言葉でお迎に上りました』と申しますから、私は矢庭にそこへ飛び込んで、旦那様はもう私の若旦那が二日も前にお会いになって、今道具を取片付けてこちらへお越しになるはずだと申しますると……」
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