《むかし》から美術國《びじゆつこく》の光譽《ほまれ》高《たか》き、其《その》さま/″\の奇觀《きくわん》をも足《た》る程《ほど》眺《なが》めたれば、之《これ》より我《わ》が懷《なつ》かしき日本《ふるさと》へ歸《かへ》らんと、當夜《そのよ》十一|時《じ》半《はん》拔錨《ばつべう》の弦月丸《げんげつまる》とて、東洋《とうよう》行《ゆき》の※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《きせん》に乘組《のりく》まんがため、國《くに》の名港《めいかう》ネープルス[#「ネープルス」に二重傍線]まで來《き》たのは、今《いま》から丁度《ちやうど》四|年《ねん》前《まへ》、季節《せつ》は櫻《さくら》散《ち》る五月《ごぐわつ》中旬《なかば》の或《ある》晴朗《うらゝか》な日《ひ》の正午《せうご》時分《じぶん》であつた。
市街《まち》はづれの停車塲《ステーシヨン》から客待《きやくまち》の馬車《ばしや》で、海岸《かいがん》附近《まぢか》の或《ある》旅亭《はたごや》に着《つ》き、部室《へや》も定《さだ》まり軈《やが》て晝餉《ひるげ》もすむと最早《もはや》何《なに》も爲《す》る事《こと》がない、船《ふね》の出港
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