更《あらた》めて寢臺《ねだい》に横《よこたわ》つたが、何故《なぜ》か少《すこ》しも眠《ねぶ》られなかつた。船室《キヤビン》の中央《ちゆうわう》に吊《つる》してある球燈《きゆうとう》の光《ひかり》は煌々《くわう/\》と輝《かゞや》いて居《を》るが、どうも其邊《そのへん》に何《なに》か魔性《ませう》でも居《を》るやうで、空氣《くうき》は頭《あたま》を壓《おさ》へるやうに重《おも》く、實《じつ》に寢苦《ねぐる》しかつた。諸君《しよくん》も御經驗《ごけいけん》であらうが此樣《こん》な時《とき》にはとても眠《ねむ》られるものではない、氣《き》を焦《いらだ》てば焦《いらだ》つ程《ほど》眼《まなこ》は冴《さ》えて胸《むね》にはさま/″\の妄想《もうざう》が往來《わうらい》する。
私《わたくし》は思《おも》ひ切《き》つて再《ふたゝ》び起上《おきあが》つた。喫烟室《スモーキングルーム》へ行《ゆ》くも面倒《めんだう》なり、少《すこ》し船《ふね》の規則《きそく》の違反《ゐはん》ではあるが、此室《こゝ》で葉卷《シユーガー》でも燻《くゆ》らさうと思《おも》つて洋服《やうふく》の衣袋《ポツケツト》を探《さぐ》りて
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