ケツト》を探《さぐ》つて、双眼鏡《さうがんきやう》を取出《とりいだ》し、度《ど》を合《あは》せて猶《な》ほよく其《その》甲板《かんぱん》の工合《ぐあひ》を見《み》やうとする、丁度《ちやうど》此時《このとき》先方《むかふ》の船《ふね》でも、一個《ひとり》の船員《せんゐん》らしい男《をとこ》が、船橋《せんけう》の上《うへ》から一心《いつしん》に双眼鏡《そうがんきやう》を我《わ》が船《ふね》に向《む》けて居《を》つたが、不思議《ふしぎ》だ、私《わたくし》の視線《しせん》と彼方《かなた》の視線《しせん》とが端《はし》なくも衝突《しようとつ》すると、忽《たちま》ち彼男《かなた》は双眼鏡《そうがんきやう》をかなぐり捨《す》てゝ、乾顏《そしらぬかほ》に横《よこ》を向《む》いた。其《その》擧動《ふるまひ》のあまりに奇怪《きくわい》なので私《わたくし》は思《おも》はず小首《こくび》を傾《かたむ》けたが、此時《このとき》何故《なにゆゑ》とも知《し》れず偶然《ぐうぜん》にも胸《むね》に浮《うか》んで來《き》た一《ひと》つの物語《ものがたり》がある。それは忘《わす》れもせぬ去年《きよねん》の秋《あき》の事《こ
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