うけい》は今迄《いまゝで》に幾回《いくくわい》ともなく眺《なが》めたが、今宵《こよひ》はわけて趣味《しゆみ》ある樣《やう》に覺《おぼ》えたので眼《まなこ》も放《はな》たず、それからそれと眺《なが》めて行《ゆ》く内《うち》、ふと眼《め》に止《とま》つた一つの有樣《ありさま》――それは此處《こゝ》から五百|米突《メートル》ばかりの距離《きより》に停泊《ていはく》して居《を》る一|艘《そう》の蒸※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《じようきせん》で、今《いま》某《ぼう》國《こく》軍艦《ぐんかん》からの探海燈《たんかいとう》は其邊《そのへん》を隈《くま》なく照《てら》して居《を》るので、其《その》甲板《かんぱん》の裝置《さうち》なども手《て》に取《と》るやうに見《み》える、此《この》船《ふね》噸數《とんすう》一千|噸《とん》位《くらゐ》、船體《せんたい》は黒色《こくしよく》に塗《ぬ》られて、二本《にほん》煙筒《チム子ー》に二本《にほん》檣《マスト》、軍艦《ぐんかん》でない事《こと》は分《わか》つて居《を》るが、商船《しやうせん》か、郵便船《ゆうびんせん》か、或《あるひ》は他《た》に
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