さ》らんと、春枝夫人《はるえふじん》を見返《みか》へると、夫人《ふじん》も今《いま》の有樣《ありさま》と古風《こふう》なる英國人《エイこくじん》の獨言《ひとりごと》には幾分《いくぶん》か不快《ふくわい》を感《かん》じたと見《み》へ
『あの艫《とも》の方《はう》へでもいらつしやいませんか。』と私《わたくし》を促《うなが》しつゝ蓮歩《れんぽ》を彼方《かなた》へ移《うつ》した。
頓《やが》て船尾《せんび》の方《かた》へ來《き》て見《み》ると、此處《こゝ》は人影《ひとかげ》も稀《まれ》で、既《すで》に洗淨《せんじよう》を終《をは》つて、幾分《いくぶん》の水氣《すゐき》を帶《お》びて居《を》る甲板《かんぱん》の上《うへ》には、月《つき》の色《ひかり》も一段《いちだん》と冴渡《さへわた》つて居《を》る。
『矢張《やはり》靜《しづ》かな所《ところ》が宜《よ》う厶《ござ》いますねえ。』と春枝夫人《はるえふじん》は此時《このとき》淋《さび》しき笑《えみ》を浮《うか》べて、日出雄少年《ひでをせうねん》と共《とも》にずつと船端《せんたん》へ行《い》つて、鐵欄《てすり》に凭《もた》れて遙《はる》かなる埠頭《は
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