へうし》に足《あし》踏滑《ふみすべ》らして、船橋《せんけう》の階段《かいだん》を二三|段《だん》眞逆《まつさかさま》に落《お》ちた。水夫《すゐふ》共《ども》は『あツ』とばかり顏《かほ》の色《いろ》を變《かへ》た。船長《せんちやう》は周章《あは》てゝ起上《おきあが》つたが、怒氣《どき》滿面《まんめん》、けれど自己《おの》が醜態《しゆうたい》に怒《おこ》る事《こと》も出來《でき》ず、ビール樽《だる》のやうな腹《はら》に手《て》を當《あ》てゝ、物凄《ものすご》い眼《まなこ》に水夫《すゐふ》共《ども》を睨《にら》み付《つ》けると、此時《このとき》私《わたくし》の傍《かたはら》には鬚《ひげ》の長《なが》い、頭《あたま》の禿《はげ》た、如何《いか》にも古風《こふう》らしい一個《ひとり》の英國人《エイこくじん》が立《た》つて居《を》つたが、此《この》活劇《ありさま》を見《み》るより、ぶるぶる[#「ぶるぶる」に傍点]と身慄《みぶるひ》して
『あゝ、あゝ、縁起《えんぎ》でもない、南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》! 此《この》船《ふね》に惡魔《あくま》が魅《みいつ》て居《ゐ》なければよいが。』と呟《つぶや》
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