た船首《せんしゆ》の方《かた》へ歩《ほ》を移《うつ》した。
最早《もはや》、出港《しゆつかう》の時刻《じこく》も迫《せま》つて居《を》る事《こと》とて、此邊《このへん》は仲々《なか/\》の混雜《こんざつ》であつた。輕《かろ》き服裝《ふくさう》せる船丁等《ボーイら》は宙《ちう》になつて驅《か》けめぐり、逞《たく》ましき骨格《こつかく》せる夥多《あまた》の船員等《せんゐんら》は自己《おの》が持塲《もちば》/\に列《れつ》を作《つく》りて、後部《こうぶ》の舷梯《げんてい》は既《すで》に引揚《ひきあ》げられたり。今《いま》しも船首甲板《せんしゆかんぱん》に於《お》ける一等運轉手《チーフメート》の指揮《しき》の下《した》に、はや一|團《だん》の水夫等《すいふら》は捲揚機《ウインチ》の周圍《しゆうゐ》に走《は》せ集《あつま》つて、次《つぎ》の一|令《れい》と共《とも》に錨鎖《べうさ》を卷揚《まきあ》げん身構《みがまへ》。船橋《せんけう》の上《うへ》にはビール樽《だる》のやうに肥滿《ひまん》した船長《せんちやう》が、赤《あか》き頬髯《ほゝひげ》を捻《ひね》りつゝ傲然《がうぜん》と四|方《はう》を睥睨
前へ
次へ
全603ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング