せん》を立去《たちさ》らねばならぬのである。で、濱島《はまじま》は此時《このとき》最早《もはや》此《この》船《ふね》を去《さ》らんとて私《わたくし》の手《て》を握《にぎ》りて袂別《わかれ》の言葉《ことば》厚《あつ》く、夫人《ふじん》にも二言《ふたこと》三言《みこと》云《い》つた後《のち》、その愛兒《あいじ》をば右手《めて》に抱《いだ》き寄《よ》せて、其《その》房々《ふさ/″\》とした頭髮《かみのけ》を撫《な》でながら
『日出雄《ひでを》や、汝《おまへ》と父《ちゝ》とは、之《これ》から長時《しばらく》の間《あひだ》別《わか》れるのだが、汝《おまへ》は兼々《かね/″\》父《ちゝ》の言《い》ふやうに、世《よ》に俊《すぐ》れた人《ひと》となつて――有爲《りつぱ》な海軍士官《かいぐんしくわん》となつて、日本帝國《につぽんていこく》の干城《まもり》となる志《こゝろ》を忘《わす》れてはなりませんよ。』と言《い》ひ終《をは》つて、少年《せうねん》が默《だま》つて點頭《うなづ》くのを笑《え》まし氣《げ》に打《う》ち見《み》やりつゝ、他《た》の三人《みたり》を促《うなが》して船室《キヤビン》を出《で》た。
前へ
次へ
全603ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング