先刻《せんこく》は見送《みおく》られた吾等《われら》は今《いま》は彼等《かれら》を此《この》船《ふね》より送《おく》り出《いだ》さんと、私《わたくし》は右手《めて》に少年《せうねん》を導《みちび》き、流石《さすが》に悄然《せうぜん》たる春枝夫人《はるえふじん》を扶《たす》けて甲板《かんぱん》に出《で》ると、今宵《こよひ》は陰暦《いんれき》十三|夜《や》、深碧《しんぺき》の空《そら》には一|片《ぺん》の雲《くも》もなく、月《つき》は浩々《かう/\》と冴《さ》え渡《わた》りて、加《くは》ふるに遙《はる》かの沖《おき》に停泊《ていはく》して居《を》る三四|艘《そう》の某《ぼう》國《こく》軍艦《ぐんかん》からは、始終《しじゆう》探海電燈《サーチライト》をもつて海面《かいめん》を照《てら》して居《を》るので、其《その》明《あきらか》なる事《こと》は白晝《まひる》を欺《あざむ》くばかりで、波《なみ》のまに/\浮沈《うきしづ》んで居《を》る浮標《ブイ》の形《かたち》さへいと明《あきらか》に見《み》える程《ほど》だ。
濱島《はまじま》は船《ふね》の舷梯《げんてい》まで到《いた》つた時《とき》、今《い
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