》入《いり》。最早《もはや》袂別《わかれ》の時刻《じこく》も迫《せま》つて來《き》たので、いろ/\の談話《はなし》はそれからそれと盡《つ》くる間《ま》も無《な》かつたが、兎角《とかく》する程《ほど》に、ガラン、ガラ、ガラン、ガラ、と船中《せんちゆう》に布《ふ》れ廻《まは》る銅鑼《どら》の響《ひゞき》が囂《かまびす》しく聽《きこ》えた。
『あら、あら、あの音《おと》は――。』と日出雄少年《ひでをせうねん》は眼《め》をまん丸《まる》にして母君《はゝぎみ》の優《やさ》しき顏《かほ》を仰《あふ》ぐと、春枝夫人《はるえふじん》は默然《もくねん》として、其《その》良君《をつと》を見《み》る。濱島武文《はまじまたけぶみ》は靜《しづ》かに立上《たちあが》つて
『もう、袂別《おわかれ》の時刻《じこく》になつたよ。』と他《た》の三人《みたり》を顧見《かへりみ》た。
すべて、海上《かいじやう》の規則《きそく》では、船《ふね》の出港《しゆつかう》の十|分《ぷん》乃至《ないし》十五|分《ふん》前《まへ》に、船中《せんちう》を布《ふ》れ廻《まは》る銅鑼《どら》の響《ひゞき》の聽《きこ》ゆると共《とも》に本船《ほん
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