たとへ迷信《めいしん》でも、其《その》主人《しゆじん》の身《み》の上《うへ》を慮《おも》ふこと斯《か》くまで深《ふか》く、かくも眞面目《まじめ》で居《を》る者《もの》を、無下《むげ》に嘲笑《けな》すでもあるまいと氣付《きづ》いたので、込《こ》み上《あ》げて來《く》る可笑《をかし》さを無理《むり》に怺《こら》えて
『亞尼《アンニー》!。』と一聲《いつせい》呼《よ》びかけた。
『亞尼《アンニー》! お前《まへ》の言《い》ふ事《こと》はよく分《わか》つたよ、其《その》忠實《ちうじつ》なる心《こゝろ》をば御主人樣《ごしゆじんさま》も奧樣《おくさま》もどんなにかお悦《よろこ》びだらう、けれど――。』と彼女《かのぢよ》の顏《かほ》を眺《なが》め
『けれどお前《まへ》の言《い》ふ事《こと》は、みんな昔《むかし》の話《はなし》で、今《いま》では魔《ま》の日《ひ》も祟《たゝり》の日《ひ》も無《な》くなつたよ。』
『あゝ、貴方《あなた》も矢張《やはり》お笑《わら》ひなさるのですか。』と亞尼《アンニー》はいと情《なさけ》なき顏《かほ》に眼《まなこ》を閉《と》ぢた。
『いや、决《けつ》して笑《わら》ふのではな
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