このこと》は旦那樣《だんなさま》にも奧樣《おくさま》にも毎度《いくたび》か申上《まうしあ》げて、何卒《どうか》今夜《こんや》の御出帆《ごしゆつぱん》丈《だ》けは御見合《おみあは》せ下《くだ》さいと御願《おねが》ひ申《まう》したのですが、御兩方《おふたり》共《とも》たゞ笑《わら》つて「亞尼《アンニー》や其樣《そんな》に心配《しんぱい》するには及《およ》ばないよ。」と仰《おほ》せあるばかり、少《すこ》しも御聽許《おきゝ》にはならないのです。けれど賓人《まれびと》よ、私《わたくし》はよく存《ぞん》じて居《を》ります、今夜《こんや》の弦月丸《げんげつまる》とかで御出發《ごしゆつぱつ》になつては、奧樣《おくさま》も、日出雄樣《ひでをさま》も、决《けつ》して御無事《ごぶじ》では濟《す》みませんよ。』
『無事《ぶじ》で濟《す》まんとは――。』と私《わたくし》は思《おも》はず釣込《つりこ》まれた。
『はい、决《けつ》して御無事《ごぶじ》には濟《す》みません。』と、亞尼《アンニー》は眞面目《まじめ》になつた、私《わたくし》の顏《かほ》を頼母《たのも》し氣《げ》に見上《みあ》げて
『私《わたくし》は貴方《
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