めて居《を》つたが
『あの、妾《わたくし》の奧樣《おくさま》と日出雄樣《ひでをさま》とは今夜《こんや》の弦月丸《げんげつまる》で、貴方《あなた》と御同道《ごどうだう》に日本《につぽん》へ御出發《ごしゆつぱつ》になる相《さう》ですが、それを御|延《の》べになる事《こと》は出來《でき》ますまいか。』と恐《おそ》る/\口《くち》を開《ひら》いたのである。ハテ、妙《めう》な事《こと》を言《い》ふ女《をんな》だと私《わたくし》は眉《まゆ》を顰《ひそ》めたが、よく見《み》ると、老女《らうぢよ》は、何事《なにごと》にか痛《いた》く心《こゝろ》を惱《なや》まして居《を》る樣子《やうす》なので、私《わたくし》は逆《さか》らはない
『左樣《さう》さねえ、もう延《の》ばす事《こと》は出來《でき》まいよ。』と輕《かろ》く言《い》つて
『然《しか》し、お前《まへ》は何故《なぜ》其樣《そんな》に嘆《なげ》くのかね。』と言葉《ことば》やさしく問《と》ひかけると、此《この》一言《いちごん》に老女《らうぢよ》は少《すこ》しく顏《かほ》を擡《もた》げ
『實《じつ》に賓人《まれびと》よ、私《わたくし》はこれ程《ほど》悲《か
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