のとき》にふと心付《こゝろつ》くと、何者《なにもの》か私《わたくし》の後《うしろ》にこそ/\と尾行《びかう》して來《く》る樣子《やうす》、オヤ變《へん》だと振返《ふりかへ》る、途端《とたん》に其《その》影《かげ》は轉《まろ》ぶが如《ごと》く私《わたくし》の足許《あしもと》へ走《はし》り寄《よ》つた。見《み》ると、こは先刻《せんこく》送別《そうべつ》の席《せき》で、只《たゞ》一人《ひとり》で泣《な》いて居《を》つた亞尼《アンニー》と呼《よ》べる老女《らうぢよ》であつた。
『おや、お前《まへ》は。』と私《わたくし》は歩行《あゆみ》を止《と》めると、老女《らうぢよ》は今《いま》も猶《な》ほ泣《な》きながら
『賓人《まれびと》よ、お|願《ねが》ひで厶《ござ》ります。』と兩手《りやうて》を合《あは》せて私《わたくし》を仰《あほ》ぎ見《み》た。
『お前《まへ》は亞尼《アンニー》とか云《い》つたねえ、何《なん》の用《よう》かね。』と私《わたくし》は靜《しづ》かに問《と》ふた。老女《らうぢよ》は虫《むし》のやうな聲《こゑ》で『賓人《まれびと》よ。』と暫時《しばし》私《わたくし》の顏《かほ》を眺《なが》
前へ
次へ
全603ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング