妻子《さいし》も、今夜《こんや》の弦月丸《げんげつまる》で日本《につぽん》へ皈國《かへり》ますので。』
『え、君《きみ》の細君《さいくん》と御子息《ごしそく》※[#疑問符感嘆符、1−8−77]』と私《わたくし》は意外《いぐわい》に※[#「口+斗」、8−11]《さけ》んだ。十|年《ねん》も相《あひ》見《み》ぬ間《あひだ》に、彼《かれ》に妻子《さいし》の出來《でき》た事《こと》は何《なに》も不思議《ふしぎ》はないが、實《じつ》は今《いま》の今《いま》まで知《し》らなんだ、况《いは》んや其人《そのひと》が今《いま》本國《ほんごく》へ皈《かへ》るなどゝは全《まつた》く寢耳《ねみゝ》に水《みづ》だ。
濱島《はまじま》は聲《こゑ》高《たか》く笑《わら》つて
『はゝゝゝゝ。君《きみ》はまだ私《わたくし》の妻子《さいし》を御存《ごぞん》じなかつたのでしたね。これは失敬《しつけい》々々。』と急《いそが》はしく呼鈴《よびりん》を鳴《な》らして、入《いり》來《きた》つた小間使《こまづかひ》に
『あのね、奧《おく》さんに珍《めづ》らしいお客樣《きやくさま》が……。』と言《い》つたまゝ私《わたくし》の方《はう》
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