《すゐふ》があるです、敢《あへ》て貴下《きか》を煩《はずら》はす筈《はづ》も無《な》いです。』
『無論《むろん》です、けれど本船《ほんせん》の當番《たうばん》水夫《すゐふ》は眼《め》の無《な》い奴《やつ》に、情《こゝろ》の無《な》い奴《やつ》です、一人《ひとり》は茫然《ぼんやり》して居《ゐ》ます、一人《ひとり》は知《し》つて知《し》らぬ顏《かほ》をして居《ゐ》ます。船長閣下《せんちやうかくか》、早《はや》く、早《はや》く、難破船《なんぱせん》の運命《うんめい》は一|分《ぷん》一|秒《びやう》の遲速《ちそく》をも爭《あらそ》ひますぞ。』
『いけません!』と船長《せんちやう》は冷《ひやゝ》かに笑《わら》つた。
『貴下《あなた》は海上《かいじやう》の法則《ほうそく》を知《し》りませんか、たとへ如何《どん》な事《こと》があらうとも船員《せんゐん》以外《いぐわい》の者《もの》が其《それ》に嘴《くちばし》を容《ゐ》れる權利《けんり》が無《な》いです、また私《わたくし》は貴下《あなた》から其樣《そん》な報告《ほうこく》を受《う》ける義務《ぎむ》が無《な》いです。』と彼《かれ》は右手《ゆんで》を延《の
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