の當番《たうばん》水夫《すゐふ》は今《いま》や確《たしか》に星火《せいくわ》迸《ほとばし》り、火箭《くわせん》飛《と》ぶ慘憺《さんたん》たる難破船《なんぱせん》の信號《しんがう》を認《みと》めて居《を》るには相違《さうゐ》ないのだが、何故《なぜ》か平然《へいぜん》として動《どう》ずる色《いろ》もなく、籠手《こて》を翳《かざ》して其方《そなた》を眺《なが》めて居《を》るのみ。
『當番《たうばん》水夫《すゐふ》! 何《なに》を茫然《ぼんやり》して居《を》るかツ※[#感嘆符三つ、76−8]』と叫《さけ》んだまゝ、私《わたくし》は身《み》を飜《ひるがへ》して船長室《せんちやうしつ》の方《かた》へ走《はし》つた。勿論《もちろん》、船《ふね》に嚴然《げんぜん》たる規律《きりつ》のある事《こと》は誰《たれ》も知《し》つて居《を》る、たとへ霹靂《へきれき》天空《てんくう》に碎《くだ》けやうとも、數萬《すうまん》の魔神《まじん》が一|時《じ》に海上《かいじやう》に現出《あらは》れやうとも、船員《せんゐん》ならぬ者《もの》が船員《せんゐん》の職權《しよくけん》を侵《おか》して、之《これ》を船長《せんちやう
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