ノの彈奏中《だんそうちゆう》であつたが、此《この》婦人《ふじん》は極《きは》めて驕慢《けうまん》なる性質《せいしつ》と見《み》えて、彈奏《だんそう》の間《あひだ》始終《しゞう》ピアノ臺《だい》の上《うへ》から聽集《きゝて》の顏《かほ》を流盻《ながしめ》に見《み》て、折《をり》ふし鵞鳥《がてう》のやうな聲《こゑ》で唱《うた》ひ出《だ》す歌《うた》の調《しら》べは左迄《さまで》妙手《じやうず》とも思《おも》はれぬのに、唱《うた》ふ當人《たうにん》は非常《ひじやう》の得色《とくしよく》で、やがて彈奏《だんそう》が終《をは》ると小鼻《こばな》を蠢《うごめ》かし、孔雀《くじやく》のやうに裳《もすそ》を飜《ひるが》へして席《せき》に歸《かへ》つた。此《この》次《つぎ》は如何《いか》なる人《ひと》が出《で》るだらうと、私《わたくし》は春枝夫人《はるえふじん》と語《かた》りながら一|方《ぽう》の倚子《ゐす》に倚《よ》りて眺《なが》めて居《を》つたが、暫時《しばらく》は何人《たれ》も出《で》ない、大方《おほかた》今《いま》の鵞鳥聲《がてうごゑ》の婦人《ふじん》の爲《た》めに荒膽《あらぎも》を※[#「抜」
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