》海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》とは比較《ひかく》する事《こと》も出來《でき》ぬのである。今《いま》、此《この》新奇《しんき》なる海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》は、艇底《ていてい》に設《まう》けられたる自動浮沈機《じどうふちんき》の作用《さよう》で、海底《かいてい》三十|呎《フヒート》乃至《ないし》五十|呎《フヒート》迄《まで》の深《ふか》さに沈《しづ》む事《こと》を得《う》べく、空氣《くうき》は、普通《ふつう》の氣蓄器《きちくき》又《また》は空氣壓搾喞筒等《くうきあつさくぽんぷとう》に依《よ》る事《こと》なく、艇《てい》の後端《こうたん》に裝置《さうち》されたる或《ある》緻密《ちみつ》なる機械《きかい》の作用《さよう》にて、大中小《だいちうせう》幾百條《いくひやくでう》とも知《し》れず、兩舷《りようげん》より海中《かいちゆう》に突出《つきだ》されたる、亞鉛管《あゑんくわん》及《および》銅管《どうくわん》を通《つう》じて、海水中《かいすいちゆう》より水素《すいそ》酸素《さんそ》を分析《ぶんせき》して大氣《たいき》[#ルビの「たいき」は底本では「だいき」]筒中《たうちゆう》に導《みちび》き、吸鍔棹《ピストン》に似《に》たる器械《きかい》の上下《じやうか》するに隨《したが》つて、新鮮《しんせん》なる空氣《くうき》は蒸氣《じようき》の如《ごと》く一方《いつぽう》の巨管《きよくわん》から艇内《ていない》に吹出《ふきだ》され、艇内《ていない》の惡分子《あくぶんし》は、排氣喞筒《はいきぽんぷ》によつて始終《しじゆう》艇外《ていぐわい》に排出《はいしゆつ》せられるから、艇《てい》は些《いさゝか》も空氣《くうき》の缺乏《けつぼう》を感《かん》ずる事《こと》なく、十|時間《じかん》でも二十|時間《じかん》でも、必要《ひつよう》に應《おう》じて海底《かいてい》の潜行《せんかう》を繼續《けいぞく》する事《こと》が出來《でき》るのである。速力《そくりよく》は一時間《いちじかん》に平速力《へいそくりよく》五十六|海里《ノツト》、最速力《さいそくりよく》百〇七|海里《ノツト》。かくも驚《おどろ》くべき速力《そくりよく》を有《いう》するのは全《まつた》く艇《てい》の形體《けいたい》と、蒸氣力《じようきりよく》よりも電氣力《でんきりよく》よりも數十倍《すうじふばい》強烈《きようれつ》なる動力《どうりよく》による事《こと》は疑《うたがひ》を容《ゐ》れぬが、殊《こと》に艇尾《ていび》兩瑞《りようたん》に裝置《さうち》されたる六枚《ろくまい》の翅《つばさ》を有《いう》する推進螺旋《スクリユー》の不思議《ふしぎ》なる廻轉作用《くわいてんさよう》の與《あづか》つて力《ちから》ある事《こと》を記臆《きおく》して貰《もら》はねばならぬ。
讀者《どくしや》諸君《しよくん》、私《わたくし》は此《この》秘密《ひみつ》なる海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の構造《かうざう》については、最早《もはや》説明《せつめい》の筆《ふで》を止《と》めるが、今《いま》の世《よ》は愚《おろ》か、後《のち》の世《よ》にも稀《まれ》にも見出《みいだ》し難《がた》き此《この》軍艇《ぐんてい》が他日《たじつ》其《その》船渠《ドツク》を離《はな》れて世界《せかい》の海上《かいじやう》に浮《うか》んだ時《とき》には、果《はた》して如何《いか》なる驚愕《きようがく》と恐怖《けうふ》とを※[#「一/力」、193−1]國《ばんこく》の海軍社會《かいぐんしやくわい》に與《あた》へるであらうか。世《よ》に若《も》し怪物《くわいぶつ》といふ者《もの》があるならば、此《この》軍艇《ぐんてい》こそ確《たしか》に地球《ちきゆう》の表面《ひやうめん》に於《おい》て、最《もつと》も恐《おそ》るべき大怪物《だいくわいぶつ》として、永《なが》く歐米諸國《をうべいしよこく》の海軍社會《かいぐんしやくわい》の記臆《きおく》に留《とゞま》るであらう。私《わたくし》は斷言《だんげん》する、此《この》海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》が一度《ひとたび》逆浪《げきらう》怒濤《どたう》を蹴《け》つて縱横無盡《じゆうわうむじん》、隱見出沒《いんけんしゆつぼつ》の魔力《まりよく》と逞《たくま》しうする時《とき》には、たとへ百《ひやく》の艦隊《かんたい》、千《せん》の大戰鬪艦《だいせんとうかん》が彈丸《だんぐわん》の雨《あめ》を降《ふ》らして對《むか》つたとて、とても此《この》艇《てい》の活動《くわつどう》を妨《さまた》げる事《こと》は出來《でき》ぬのである。少《すこ》し海軍《かいぐん》の事《こと》に通《つう》じた人《ひと》は誰《たれ》でも知《し》つて居《を》る、すでに海水中《かいすいちう》十四|呎《フヒート》以下《いか》に沈《しづ》んだる或《
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