》の機關《きくわん》の作用《さよう》を宰《つかさど》る動力《どうりよく》は世《よ》の常《つね》の蒸氣力《じようきりよく》でもなく電氣力《でんきりよく》でもなく、現世紀《げんせいき》には未《いま》だ知《し》られざる一種《いつしゆ》の化學的作用《くわがくてきさよう》で、櫻木大佐《さくらぎたいさ》が幾年月《いくねんげつ》の間《あひだ》苦心《くしん》に苦心《くしん》を重《かさ》ねたる結果《けつくわ》、或《ある》秘密《ひみつ》なる十二|種《しゆ》の化學藥液《くわがくやくえき》の機密《きみつ》なる分量《ぶんりよう》の化合《くわごう》は、普通《ふつう》の電氣力《でんきりよく》に比《ひ》して、殆《ほと》んど三十|倍《ばい》以上《いじやう》の猛烈《まうれつ》なる作用《さよう》を起《おこ》す事《こと》を發見《はつけん》し、其《それ》を此《この》艇《てい》の總《すべて》の機關《きくわん》に適用《てきよう》したので、艇《てい》の進行《しんかう》も、三尖衝角《さんせんしやうかく》の廻旋《くわいせん》も、新式水雷發射機《しんしきすいらいはつしやき》の運轉《うんてん》も、すべて此《この》秘密《ひみつ》なる活動力《くわつどうりよく》によつて支配《しはい》されて居《を》るのである。
以上《いじやう》で、吾《わ》が敬愛《けいあい》する讀者《どくしや》諸君《しよくん》は髣髴《ほうふつ》として、此《この》艇《てい》の構造《かうざう》と其《その》驚《おどろ》くべき戰鬪力《せんとうりよく》について、或《ある》想像《さうざう》を腦裡《こゝろ》に描《えが》かれたであらう。最早《もはや》煩縟《くた/″\》しくいふに及《およ》ばぬ、此《この》不思議《ふしぎ》なる海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》は、今日《こんにち》世界《せかい》萬國《ばんこく》の海軍社會《かいぐんしやくわい》に於《おい》て、互《たがひ》に其《その》改良《かいりよう》と進歩《しんぽ》とを競《きそ》ひつゝある海底潜行艇《かいていせんかうてい》の一種《いつしゆ》である。然《しか》り、海底潜行艇《かいていせんかうてい》の一種《いつしゆ》には相違《さうゐ》ないが、然《しか》し私《わたくし》は單《たん》に此《この》軍艇《ぐんてい》をば潜行艇《せんかうてい》と呼《よ》ぶのみを以《もつ》ては滿足《まんぞく》しない、何《なに》となれば現今《げんこん》歐米諸國《をうべいしよこく》の發明家等《はつめいから》は、毎年《まいねん》のやうに新奇《しんき》なる潜行艇《せんかうてい》を發明《はつめい》したと誇大《こだい》に吹聽《ふいちやう》するものゝ、其《その》多數《おほく》は、「水《みづ》バラスト」とか、横舵《わうだ》、縱舵《じゆうだ》の改良《かいりよう》とか、其他《そのほか》排氣啣筒《はいきぽんぷ》や、浮沈機等《ふちんきとう》に尠少《いさゝか》ばかりの改良《かいりよう》を加《くわ》へたのみで、其《その》動力《どうりよく》は常《つね》に石油發動力《せきゆうはつどうりよく》にあらずば、電氣力《でんきりよく》と定《さだ》まり、艇形《ていけい》は葉卷烟草形《はまきたばこがた》に似《に》て、推進螺旋《スクリユー》の翅《つばさ》の不思議《ふしぎ》に拗《よぢ》れたる有樣《ありさま》など、例《いつ》もシー、エヂスン[#「シー、エヂスン」に傍線]氏等《しら》の舊套《きゆうとう》を摸傚《もほう》するばかりで、成程《なるほど》海中《かいちう》を潜行《せんかう》するが故《ゆゑ》に潜水艇《せんすいてい》の名《な》は虚僞《うそ》ではないにしても、從來《じゆうらい》の實例《じつれい》では、是等《これら》の潜行艇《せんかうてい》は海水《かいすい》の壓力《あつりよく》の爲《た》めと空氣《くうき》の缺乏《けつぼう》の爲《ため》に海底《かいてい》六|呎《フヒート》以下《いか》に沈降《ちんかう》するものは稀《まれ》で、一|時間《じかん》以上《いじやう》の潜行《せんかう》を持續《ぢぞく》するものは皆無《かいむ》といふ有樣《ありさま》。されば今世紀《こんせいき》に於《おい》て最《もつと》も進歩《しんぽ》發達《はつたつ》[#ルビの「はつたつ」は底本では「はつだつ」]して居《を》ると稱《せう》せらるゝ佛國《フツこく》シエルブル[#「シエルブル」に二重傍線]造船所《ざうせんじよ》の一等潜行艇《いつとうせんかうてい》でも、此《この》二個《にこ》の缺點《けつてん》のある爲《ため》に充分《じゆうぶん》の働作《はたらき》も出來《でき》ず、首尾《しゆび》よく敵艦《てきかん》に接近《せつきん》しながら、屡々《しば/\》速射砲等《そくしやほうとう》をもつて反對《はんたい》に撃沈《げきちん》される程《ほど》で、とても、我《わ》が櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》の破天荒《はてんくわう》なる、此《この
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