》する所《ところ》があつたに相違《さうゐ》ない。爾《そ》してかれは一|度《ど》企《くわだ》てた事《こと》は其《その》目的《もくてき》を達《たつ》するまでは止《や》まぬ人《ひと》であるから、大佐《たいさ》が再《ふたゝ》び此世《このよ》に現《あら》はれて來《く》る時《とき》には必《かなら》ず絶大《ぜつだい》の功績《こうせき》を齎《もた》らして來《く》る事《こと》は疑《うたがひ》もない、されば櫻木大佐《さくらぎたいさ》が再《ふたゝ》び日本《につぽん》へ皈《かへ》つたものとすれば、其《その》勳功《くんこう》は日月《じつげつ》よりも明《あきら》かに輝《かゞや》きて、如何《いか》に私《わたくし》が旅《たび》から旅《たび》へと經廻《へめぐ》つて居《を》るにしても其《その》風聞《ふうぶん》の耳《みゝ》に達《たつ》せぬ事《こと》はあるまい、然《しか》るに今日《こんにち》まで幾度《いくたび》か各國市府《かくこくしふ》の日本公使館《につぽんこうしくわん》や領事館《りやうじくわん》を訪《おと》づれたが、一|度《ど》もそれと覺《おぼ》しき消息《せうそく》を耳《みゝ》にせぬのは、大佐《たいさ》は其《その》行衞《ゆくゑ》を晦《くら》ましたまゝ未《ま》だ世《よ》に現《あら》はれて來《こ》ぬ何《なに》よりの證據《しようこ》。あゝ、大佐《たいさ》は其後《そのご》何處《いづこ》に如何《どう》して居《を》るだらうと考《かんが》へるとまた種々《さま/″\》の想像《さうざう》も沸《わ》いて來《く》る。
此時《このとき》第《だい》二|點鐘《てんしよう》カン、カンと鳴《な》る。([#ここから割り注]船中の號鐘は一點鐘より八點鐘まで四時間交代なり[#ここで割り注終わり])
『おや、とう/\一|時《じ》になつた。』と私《わたくし》は欠伸《あくび》した。何時《いつ》まで考《かんが》へて居《を》つたとて際限《さいげん》のない事《こと》、且《か》つは此樣《こんな》に夜《よ》を更《ふ》かすのは衞生上《ゑいせいじやう》にも極《きわ》めて愼《つゝし》む可《べ》き事《こと》と思《おも》つたので私《わたくし》は現《げん》に想像《さうぞう》の材料《ざいりよう》となつて居《を》る古新聞《ふるしんぶん》をば押丸《おしまろ》めて部室《へや》の片隅《かたすみ》へ押遣《おしや》り、強《し》いて寢臺《ねだい》に横《よこたは》つた。初《はじめ》の間
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