殘《のこ》る賊船《ぞくせん》早《は》や三|隻《せき》、すでに一|隻《せき》は右舷《うげん》より左舷《さげん》に、他《た》の一|隻《せき》は左舷《さげん》より右舷《うげん》に、見《み》る間《ま》に甲板《かんぱん》傾《かたむ》き、濤《なみ》打上《うちあ》げて、驚《おどろ》き狂《くる》ふ海賊《かいぞく》共《ども》は、大砲《たいほう》小銃《せうじう》諸共《もろとも》[#ルビの「もろとも」は底本では「もろとき」]に、雪崩《なだれ》の如《ごと》く海《うみ》に落《お》つ。今《いま》は早《は》や殘《のこ》る賊船《ぞくせん》只《たゞ》一|隻《せき》! 之《こ》れぞ二本《にほん》煙筒《ゑんとう》に二本《にほん》檣《マスト》の海蛇丸《かいだまる》! 海蛇丸《かいだまる》は最早《もはや》叶《かな》はじとや思《おも》ひけん、旗《はた》を卷《ま》き、黒煙《こくゑん》團々《だん/\》橄欖島《かんらんたう》の方向《ほうかう》へ逃《に》げて[#「逃《に》げて」は底本では「北《に》げて」]行《ゆ》くを、海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》今《いま》は波《なみ》に沈《しづ》む迄《まで》もなく、奔龍《ほんりう》の如《ごと》くに波上《はじやう》を追《お》ふ、本艦《ほんかん》鳴《なり》を[#「鳴《なり》を」は底本では「嗚《なり》を」]靜《しづ》むる十|秒《べう》二十|秒《べう》。其《その》鋭利《えいり》なる三尖衝角《さんせんしやうかく》は空《そら》に閃《きらめ》く電光《いなづま》の如《ごと》く賊船《ぞくせん》の右舷《うげん》に霹靂萬雷《へきれきばんらい》の響《ひゞき》あり、極惡無道《ごくあくむだう》の海蛇丸《かいだまる》は遂《つひ》に水煙《すいゑん》を揚《あ》げて海底《かいてい》に沒《ぼつ》し去《さ》つた。
此時《このとき》夜《よ》は全《まつた》く明《あ》けて碧瑠璃《へきるり》のやうな東《ひがし》の空《そら》からは、爛々《らん/\》たる旭日《あさひ》が昇《のぼ》つて來《き》た。我《わが》艦長松島海軍大佐《かんちやうまつしまかいぐんたいさ》は、流《なが》るゝ汗《あせ》を押拭《おしぬぐ》ひつゝ、滿顏《まんがん》に微笑《びせう》を湛《たゝ》えて一顧《いつこ》すると、忽《たちま》ち起《おこ》る「君《きみ》が代《よ》」の軍樂《ぐんがく》、妙《たえ》に勇《いさ》ましき其《その》ひゞきは、印度洋《インドやう》の波《なみ》も躍
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