時《とき》に傷《きづゝ》き倒《たを》れたるを介抱《かいほう》せんとて、優《やさ》しく抱《いだ》き上《あ》げたる彼女《かのぢよ》の雪《ゆき》の腕《かひな》には、帝國軍人《ていこくぐんじん》の鮮血《せんけつ》の滾々《こん/\》と迸《とばし》りかゝるのも見《み》えた。
海戰《かいせん》は午前《ごぜん》二|時《じ》三十|分《ぷん》に始《はじま》つて、東雲《しのゝめ》の頃《ころ》まで終《をは》らなかつた。此方《こなた》は忠勇《ちうゆう》義烈《ぎれつ》の日本軍艦《につぽんぐんかん》なり、敵《てき》は世界《せかい》に隱《かく》れなき印度洋《インドやう》の大海賊《だいかいぞく》。海賊船《かいぞくせん》は此時《このとき》砲戰《ほうせん》もどかしとや思《おも》ひけん、中《なか》にも目立《めだ》つ三隻《さんせき》四隻《しせき》は一度《いちど》に船首《せんしゆ》を揃《そろ》へて、疾風《しつぷう》迅雷《じんらい》と突喚《とつくわん》し來《きた》る、劍戟《けんげき》の光《ひかり》晃《きらめ》く其《その》甲板《かんぱん》には、衝突《しやうとつ》と共《とも》に本艦《ほんかん》に乘移《のりうつ》らんず海賊《かいぞく》共《ども》の身構《みがまへ》。えい、ものものしや、我《わ》が神聖《しんせい》なる甲板《かんぱん》は、如何《いか》でか汝等《なんぢら》如《ごと》き汚《けが》れたる海賊《かいぞく》の血汐《ちしほ》に染《そ》むべきぞ。と我《わ》が艦《かん》ます/\奮《ふる》ふ。硝煙《せうゑん》は暗《くら》く海《うみ》を蔽《おほ》ひ、萬雷《ばんらい》一時《いちじ》に落《お》つるに異《ことな》らず。艦長松島海軍大佐《かんちやうまつしまかいぐんたいさ》の號令《がうれい》はいよ/\澄渡《すみわた》つて司令塔《しれいたふ》に高《たか》く、舵樓《だらう》には神變《しんぺん》[#ルビの「しんぺん」は底本では「しんぺ」]不可思議《ふかしぎ》の手腕《しゆわん》あり。二千八百|噸《とん》の巡洋艦《じゆんやうかん》操縱《さうじゆう》自在《じざい》。敵船《てきせん》右《みぎ》より襲《おそ》へば右舷《うげん》の速射砲《そくしやほう》之《これ》を追《お》ひ、賊船《ぞくせん》左《ひだり》より來《きた》れば左舷《さげん》の機關砲《きくわんほう》之《これ》を撃《う》つ。追《お》へども撃《う》てども敵《てき》も強者《さるもの》、再《ふたゝ》び寄
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