賊船《かいぞくせん》は黒煙《こくゑん》團々《だん/\》、怒濤《どとう》を蹴《け》つて此方《こなた》に猛進《まうしん》し來《きた》る。轟然《ごうぜん》一發《いつぱつ》の彈丸《だんぐわん》は悲鳴《ひめい》をあげて、我《わ》が前檣《ぜんしやう》を掠《かす》め去《さ》つた。大佐《たいさ》一顧《いつこ》軍刀《ぐんたう》の鞘《さや》を拂《はら》つて、屹《きつ》と屹立《つゝた》つ司令塔上《しれいたうじやう》、一|令《れい》忽《たちま》ち高《たか》く、本艦々上《ほんかんかんじやう》戰鬪喇叭《せんとうらつぱ》鳴《な》る、士官《しくわん》の肩章《けんしやう》閃《きら》めく、水兵《すいへい》其《その》配置《はいち》に就《つ》く、此時《このとき》、既《すで》に早《はや》し、既《すで》に遲《おそ》し、海賊船《かいぞくせん》から打出《うちだ》す彈丸《だんぐわん》は雨《あめ》か、霰《あられ》か。本艦《ほんかん》之《これ》に應《おう》じて先《ま》づ手始《てはじめ》には八|吋《インチ》速射砲《そくしやほう》つゞいて打出《うちだ》す機關砲《きくわんほう》。月《つき》は慘《さん》たり、月下《げつか》の海上《かいじやう》に砲火《ほうくわ》迸《とばし》り、硝煙《せうゑん》朦朧《もうらう》と立昇《たちのぼ》る光景《くわうけい》は、昔《むかし》がたりのタラント[#「タラント」に二重傍線]灣《わん》の夜戰《やせん》もかくやと想《おも》はるゝばかり。士官《しくわん》水兵《すいへい》の勇《いさ》ましき働《はたら》きぶりは言《い》ふ迄《まで》もない。よし戰鬪員《せんとうゐん》にあらずとも如何《いか》でか手《て》を拱《こまぬ》いて居《を》らるべきぞと、濱島《はまじま》も、私《わたくし》も、重《おも》き上衣《うわぎ》を跳《は》ね脱《の》けて、彈丸《だんぐわん》硝藥《せうやく》を運《はこ》ぶに急《いそが》はしく。武村兵曹《たけむらへいそう》は大軍刀《おほだち》ブン/\と振《ふ》り廻《まわ》し海賊船《かいぞくせん》若《も》し近寄《ちかよ》らば吾《われ》から其《その》甲板《かんぱん》に飛移《とびうつ》らんばかりの勢《いきほ》ひ。春枝夫人《はるえふじん》の嬋娟《せんけん》たる姿《すがた》は喩《たと》へば電雷《でんらい》風雨《ふうう》の空《そら》に櫻花《わうくわ》一瓣《いちべん》のひら/\と舞《ま》ふが如《ごと》く、一兵《いつぺい》
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