《ガーフ》に飜《ひるがへ》る帝國軍艦旗《ていこくぐんかんき》を仰《あほ》いで見《み》たり、機關砲《きくわんほう》を覗《のぞ》いて見《み》たり、果《は》ては無聊《ぶれう》に堪《た》え兼《か》ねて頻《しき》りに腕《うで》をさすつて居《ゐ》たが、其内《そのうち》に夕刻《ゆふこく》にもなると、此《この》時刻《じこく》は航海中《かうかいちう》、軍艦乘組員《ぐんかんのりくみゐん》の最《もつと》も樂《たの》しき時《とき》、公務《こうむ》の餘暇《よか》ある夥多《あまた》の士官《しくわん》水兵《すいへい》は、空《そら》高《たか》く、浪《なみ》青《あを》き後部甲板《こうぶかんぱん》に集《あつま》つて、最《もつと》も自由《じゆう》に、最《もつと》も快活《くわいくわつ》に、詩《し》を吟《ぎん》ずるもある、劍《けん》を舞《ま》はすもある。武村兵曹《たけむらへいそう》も其《その》仲間《なかま》に入《い》つて、頻《しき》りに愉快《ゆくわい》だ/\と騷《さは》いで居《を》つたが、何時《いつ》何處《どこ》から聞知《きゝつけ》たものか、例《れい》の轟大尉《とゞろきたいゐ》の虎髯《とらひげ》はぬつ[#「ぬつ」に傍点]と進《すゝ》み出《で》て
『これ、武村兵曹《たけむらへいそう》、足下《おまへ》はなか/\薩摩琵琶《さつまびは》が巧《うま》い相《さう》な、一曲《いつきよく》やらんか、やる! よし來《き》た。』と傍《かたはら》の水兵《すいへい》に命《めい》じて、自分《じぶん》兼《かね》て御持參《ごぢさん》の琵琶《びは》を取寄《とりよ》せた。年少《ねんせう》士官《しくわん》、老功《らうこう》水兵等《すいへいら》は『これは面白《おもしろ》い。』と十五|珊《サンチ》速射砲《そくしやほう》のほとり、後部艦橋《こうぶかんけう》の下《もと》に耳《みゝ》を濟《す》ます、兵曹《へいそう》、此處《こゝ》ぞと琵琶《びは》おつ取《と》り、翩飜《へんぽん》と飄《ひるがへ》る艦尾《かんび》帝國軍艦旗《ていこくぐんかんき》の下《した》に膝《ひざ》を組《く》んで、シヤシヤン、シヤラ/\と彈《ひ》き出《だ》す琵琶《びは》の曲《きよく》、聲《こゑ》張上《はりあ》げて
「雲《くも》に聳《そび》ゆる高山《たかやま》も。登《のぼ》らばなどか越《こ》へざらむ。空《そら》をひたせる海原《うなばら》も。渡《わた》らば終《つひ》に渡《わた》るべし。我《わが
前へ
次へ
全302ページ中283ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング