子《こ》に出會《であ》つたのです。いくら惡人《あくにん》でも、親子《おやこ》の情《じやう》はまた格別《かくべつ》と見《み》へ、正直《しやうじき》なる亞尼《アンニー》は「一寸《ちよつと》お出《い》で。」と其《その》子《こ》をば、其邊《そのへん》の小《ちい》さい料理屋《れうりや》へ連《つ》れて行《い》つて、自分《じぶん》の貧《さび》しい財嚢《さいふ》を傾《かたむ》けて、息子《むすこ》の嗜好《すき》な色々《いろ/\》の物《もの》を御馳走《ごちさう》して「さて、忰《せがれ》や、お前《まへ》は此頃《このごろ》はどうしておいでだえ。矢張《やはり》惡《わる》い業《しわざ》を改《あらた》めませんのかえ。」と涙《なみだ》ながらに諫《いさ》めかけると、息子《むすこ》は平氣《へいき》なものです「また始《はじ》まつたよ。おつかさん、お前《まへ》は相變《あひかは》らず馬鹿正直《ばかしやうじき》だねえ、其樣《そん》なけち/\した事《こと》で此世《このよ》が渡《わた》れるかえ。」と大酒《おほざけ》飮《の》んで、醉《ゑ》ふたまきれに「乃公《おれ》なんかは近《ちか》い内《うち》に大仕事《おほしごと》があるのだ、其《その》仕事《しごと》の爲《ため》に今《いま》此《この》港《みなと》へ來《き》て、明後晩《めうごばん》にはまた此處《こゝ》を出發《しゆつぱつ》するのだが、其《その》一件《いつけん》さへ首尾《しゆび》よく行《い》けば、百《ひやく》や二百《にひやく》の目腐《めくさ》れ金《がね》はお前《まへ》にもあげるよ。内秘《ないしよ》/\。」なんかと、思《おも》はず知《し》らず口走《くちばし》つたのでせう。之《これ》を聽《き》いた亞尼《アンニー》ははつ[#「はつ」に傍点]と愕《おどろ》いたのです。其頃《そのころ》弦月丸《げんげつまる》が、今迄《いままで》に無《な》い程《ほど》澤山《たくさん》の、黄金《わうごん》と眞珠《しんじゆ》とを搭載《たふさい》して、ネープルス[#「ネープルス」に二重傍線]港《かう》を出發《しゆつぱつ》して、東洋《とうやう》に向《むか》ふといふのは評判《ひやうばん》でしたが、誰《たれ》も世《よ》に恐《おそ》る可《べ》き海蛇丸《かいだまる》が、竊《ひそ》かに其《その》舷側《そば》に停泊《ていはく》して、樣子《やうす》を窺《うかゞ》つて居《を》るとは氣付《きづ》いた人《ひと》はありませんかつた
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