塲破りめ――奇怪の少尉
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春枝夫人《はるえふじん》は清《すゞ》しき眉《まゆ》を揚《あ》げ
『あゝ其事《そのこと》! 貴方《あなた》はよく覺《おぼ》えていらつしやいましたねえ。亞尼《アンニー》は眞個《ほんとう》に妙《めう》な事《こと》をと、其《その》時分《じぶん》は少《すこ》しも心《こゝろ》に留《と》めませんでしたが、後《のち》にそれと思《おも》ひ當《あた》りましたよ。全《まつた》く根《ね》なし言《ごと》ではありませんかつたの、それは斯《か》うなんです。』と、そよと吹《ふ》く海風《かいふう》に、鬢《びん》のほつれ毛《げ》を拂《はら》はせながら
『魔《ま》の日《ひ》、魔《ま》の刻《こく》とか申《もう》しましたねえ。其《その》夜《よ》に出帆《しゆつぱん》した弦月丸《げんげつまる》は、不思議《ふしぎ》にも、豫言《よげん》の通《とう》りに印度洋《インドやう》の沖《おき》に沈沒《ちんぼつ》して、妾《わたくし》が英國《エイこく》郵便船《ゆうびんせん》に救《すく》はれて、再《ふたゝ》び子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]の家《いへ》に歸《かへ》つた時《とき》には、亞尼《アンニー》の姿《すがた》は既《すで》に見《み》えませんでした。いろ/\探索《たんさく》して見《み》ましたが、誰《だれ》も行衞《ゆくゑ》を知《し》つて居《を》る人《ひと》はありません。本當《ほんたう》に奇妙《きめう》な事《こと》だと思《おも》つて居《を》ると、或《ある》日《ひ》の事《こと》、ウルピノ[#「ウルピノ」に二重傍線]山中《さんちう》とて、子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]の街《まち》からは餘程《よほど》離《はな》れた寒村《かんそん》の、浮世《うきよ》の外《そと》の尼寺《あまでら》から、一通《いつつう》の書状《てがみ》が屆《とゞ》きました、疑《うたがひ》もなき亞尼《アンニー》の手跡《しゆせき》で、はじめて仔細《しさい》が分《わか》りましたよ。』
『ど、ど、どんな書面《しよめん》で――。』と私《わたくし》と武村兵曹《たけむらへいそう》とは身《み》を乘出《のりだ》した。
夫人《ふじん》は明眸《めいぼう》に露《つゆ》を帶《お》びて
『可愛相《かあいさう》にねえ貴方《あなた》。其《その》書面《しよめん》によると亞尼《アンニー》は、弦月丸《げんげつまる》の沈沒《ちんぼつ》を聞《き》いて
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