し》も深《ふか》く心《こゝろ》に感《かん》ずると共《とも》に、忽《たちま》ち回想《くわいさう》した一事《いちじ》がある。それは他《ほか》でもない、忘《わす》れもせぬ四年《よねん》以前《いぜん》の事《こと》、春枝夫人《はるえふじん》と、日出雄少年《ひでをせうねん》と、私《わたくし》との三人《みたり》が、子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]港《かう》の波止塲《はとば》を去《さ》らんとした時《とき》、濱島家《はまじまけ》の召使《めしつかひ》で、常時《そのころ》日出雄少年《ひでをせうねん》の保姆《うば》であつた亞尼《アンニー》とて、伊太利《イタリー》生《うま》れの年老《としおい》たる女《をんな》が、其《その》夜《よ》の出帆《しゆつぱん》をとゞめんとて、頻《しき》りに、魔《ま》の日《ひ》だの、魔《ま》の刻《こく》だの、黄金《わうごん》や眞珠《しんじゆ》の祟《たゝ》りだのと、色々《いろ/\》奇怪《きくわい》なる言《ことば》を繰返《くりかへ》した事《こと》がある、無論《むろん》、其時《そのとき》は無※[#「(禾+尤)/上/日」、343−10]《ばか》な事《こと》と笑《わら》ひ、また實際《じつさい》無※[#「(禾+尤)/上/日」、343−10]《ばか》な事《こと》には相違《さうゐ》ないのだが、それが偶然《ぐうぜん》にも符合《ふがふ》して、今《いま》になつて考《かんが》へると、恰《あだか》も※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、343−11]去《くわこ》の樣々《さま/″\》なる厄難《やくなん》の前兆《ぜんてう》であつたかの如《ごと》く、甞《かつ》て朝日島《あさひじま》の生活中《せいくわつちう》、櫻木大佐《さくらぎたいさ》に此事《このこと》を語《かた》つた時《とき》、思慮《しりよ》深《ふか》き大佐《たいさ》すら小首《こくび》を傾《かたむ》けた程《ほど》で、私《わたくし》の胸《むね》には、始終《しじう》附《つ》いて離《はな》れぬ疑問《ぎもん》であつたので、今《いま》機會《きくわい》を得《え》て
『何《なに》か此事《このこと》に就《つ》いてお心當《こゝろあた》りはありませぬか。』と春枝夫人《はるえふじん》に問《と》ひかけた。

    第二十九回 薩摩琵琶《さつまびは》
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春枝夫人の物語――不屆な悴――風清き甲板――國船の曲――腕押し脛押と參りませう――道
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