いちど》、微《かす》かに/\、お答《こたへ》のあつた樣《やう》にも思《おも》はれたが、それも心《こゝろ》の迷《まよひ》と信《しん》じて、其後《そのゝち》朝日島《あさひじま》に漂着《へうちやく》して、或《ある》時《とき》、櫻木大佐《さくらぎたいさ》に此事《このこと》を語《かた》つた時《とき》、大佐《たいさ》は貴女《あなた》の運命《うんめい》を卜《ぼく》して、夫人《ふじん》は屹度《きつと》無事《ぶじ》であらうと言《い》はれたに拘《かゝは》らず、日出雄少年《ひでをせうねん》も、私《わたくし》も、最早《もはや》貴女《あなた》とは、現世《このよ》でお目《め》に掛《かゝ》る事《こと》は出來《でき》まいとばかり斷念《だんねん》して居《を》りましたに。』
春枝夫人《はるえふじん》は、四年《よねん》以前《いぜん》の恐《おそ》ろしき夜《よ》の光景《くわうけい》を回想《くわいさう》して
『あゝ、あの時《とき》は、眞個《ほんたう》に物凄《ものすご》う御坐《ござ》いましたねえ。轟然《がうぜん》たる響《ひゞき》と共《とも》に、弦月丸《げんげつまる》は沈沒《ちんぼつ》して、妾《わたくし》は一時《いちじ》は逆卷《さかま》く波間《なみま》に數《すう》十|尺《しやく》深《ふか》く沈《しづ》みましたが、再《ふたゝ》び海面《かいめん》に浮《うか》び上《あが》つた時《とき》、丁度《ちやうど》貴方《あなた》のお聲《こゑ》で、私《わたくし》の名《な》をお呼《よ》びになるのが聽《きこ》えました。私《わたくし》は、一たび、二たび、お答《こた》へ申《まう》しましたが、四邊《あたり》は眞《しん》の闇《やみ》で、何處《どこ》とも分《わか》らず、其儘《そのまゝ》永《なが》いお別《わか》れになりました。幸《さひは》ひ、沈沒《ちんぼつ》の間際《まぎわ》に、貴方《あなた》が投《な》げて下《くだ》さつた浮標《うき》にすがつて、浪《なみ》のまに/\漂《たゞよ》つて居《を》る内《うち》、其《その》翌朝《よくあさ》になつて見《み》ると、漫々《まん/\》たる大海原《おほうなばら》の遙《はる》か彼方《かなた》に、昨夜《さくや》の海賊船《かいぞくせん》らしい一艘《いつそう》の船《ふね》が、頻《しき》りに潜水器《せんすいき》を沈《しづ》めて居《を》るのが見《み》えましたが、其時《そのとき》、丁度《ちやうど》通《とう》りかゝつた英國《エイこく》の
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