ら。』
『そればかりか、少年《せうねん》の活溌《くわつぱつ》な事《こと》ツたら話《はなし》になりませんよ。獅子狩《しゝがり》もやります、相撲《すまふ》も取《と》ります。弱《よわ》い水兵《すいへい》なんかは負《ま》かされます。』と彼《かれ》は至極《しごく》眞面目《まじめ》に
『然《しか》し、其代《そのかは》り、大分《だいぶん》色《いろ》は黒《くろ》くなりましたよ。はい。』
『おほゝゝゝ。』と春枝夫人《はるえふじん》は半顏《はんがん》を蔽《おほ》ふて
『其樣《そんな》に黒《くろ》くなりましたの、まア。』
『イヤ、中黒《ちうぐろ》です。』と滑※[#「(禾+尤)/上/日」、333−3]《こつけい》なる兵曹《へいそう》の一言《いちごん》に、大佐《たいさ》も、濱島《はまじま》も、私《わたくし》も大聲《おほごゑ》に笑《わら》ひ崩《くづ》るゝ時《とき》、春枝夫人《はるえふじん》の優《やさ》しい眼《め》は、遙《はる》か/\の南《みなみ》の方《ほう》の水《みづ》と空《そら》とを懷《なつ》かし相《さう》に眺《なが》めて居《を》つた。
其時《そのとき》私《わたくし》は膝《ひざ》を進《すゝ》めて
『今迄《いまゝで》は吾等《われら》の經歴《けいれき》をのみ語《かた》つたが、サア今度《こんど》は、貴方等《あなたがた》のお答《こたへ》の順番《じゆんばん》ですよ。』と先《ま》づ春枝夫人《はるえふじん》に向《むか》ひ
『夫人《おくさん》! 先刻《せんこく》貴女《あなた》も左樣《さう》仰《お》つしやいましたねえ。私《わたくし》も眞個《ほんたう》に、此世《このよ》でまた貴女《あなた》にお目《め》にかゝらうとは思《おも》ひ設《まう》けませんでした、實《じつ》に不思議《ふしぎ》ですよ、一體《いつたい》あの時《とき》は如何《どう》して御助命《おたすかり》になりました。』と口《くち》を切《き》つて
『回想《くわいさう》すれば今《いま》から四|年《ねん》前《まへ》、私《わたくし》が日出雄少年《ひでをせうねん》を抱《いだ》いて、弦月丸《げんげつまる》の沈沒《ちんぼつ》と共《とも》に、海中《かいちう》に飛込《とびこ》んだ時《とき》、二度《にど》、三度《さんど》、貴女《あなた》のお名《な》をお呼《よ》び申《もう》したが、聽《きこ》ゆるものは、風《かぜ》の音《おと》と、浪《なみ》の響《ひゞき》ばかり、イヤ、只《たゞ》一度《
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